Guery日記

調べたことをまとめます

可算コンパクト・点列コンパクト

この記事は TSG Advent Calendar 2020 の 11 日目の記事です (は?).10 日目の記事はふぁぼんさんの 今日から始めるdotfiles、そして4年間ずっと使っている自作コマンドの話 でした.

距離空間においてコンパクト性と点列コンパクト性の概念は一致しますが,一般の位相空間ではいずれの含意も成り立ちません.そこで,距離化可能性より弱い条件のもとでの両者の関係に興味が出てきます.ここでは,コンパクト性や点列コンパクト性よりも弱い概念である可算コンパクト性を導入し,列型空間では可算コンパクト性と点列コンパクト性が一致することを示します.予定の四分の一ぐらいの分量になりました.そのうち追記します.

可算コンパクト空間

Def.(点列の集積点)
 X位相空間とし, (x_n)_{n \in \mathbb{N}} X の点列とする. x \in X (x_n) の集積点であるとは, x の任意の近傍  V に対し, \{n \in \mathbb{N} \mid x_n \in V \} が無限集合となることである.
Def.(可算コンパクト空間)
位相空間  X が可算コンパクト空間であるとは,次の 1, 2 の同値な条件を満たすことである.
  1.  X の任意の可算開被覆は有限な部分被覆をもつ
  2.  X の任意の点列は集積点をもつ
(同値性の証明)
(1.  \rightarrow 2.) 対偶を示す. X のある点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} が集積点を持たないとする. \{x_n \mid n \in \mathbb{N}\} が有限集合であると仮定すると,ある  m が存在して  \{n \in \mathbb{N} \mid x_n = x_m\} が無限集合となるから, x_m (x_n) の集積点となって仮定に反する,ゆえに, \{x_n \mid n \in \mathbb{N}\} は無限集合である.任意の  x \in X に対し, x (x_n) の集積点でないから,ある開集合  O_x が存在して, \{n \in \mathbb{N} \mid x_n \in O_x\} が有限集合となる. \mathbb{N} の有限部分集合全体のなす集合を  \mathcal{F} と書く. \mathcal{F} は可算である.各  F \in \mathcal{F} に対し, O_F を, O_F = \cup \{O_x \mid \{n \in \mathbb{N} \mid x_n \in O_x\} = F\} で定めると, (O_F)_{F \in \mathcal{F}} X の可算開被覆であるが, \{n \in \mathbb{N} \mid x_n \in O_F\} = F であるから, (O_F) は有限部分被覆を持たない.
(2.  \rightarrow 1.) 対偶を示す. (O_n)_{n \in \mathbb{N}} X の可算開被覆で,有限な部分被覆を持たないものとする.このとき, X の点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} で,全ての  n に対し  x_n \not \in \cup_{i \lt n} O_i となるものが取れる. (x_n) は集積点を持たない.実際, y \in X を任意にとる.ある  m が存在して  y \in O_m となるが, n \gt m に対しては  x_n \not \in O_m であるから, x_n \neq y である.ゆえに  y (x_n) の集積点でない. y の任意性より主張が従う.


可算コンパクト空間の定義 1 より,コンパクト空間は可算コンパクト空間である.定義 2 より,点列コンパクト空間は可算コンパクト空間である.いずれも逆は成立しない (点列コンパクトであるがコンパクトでない例,及びコンパクトであるが点列コンパクトでない例を考えればよい).可算コンパクト空間の閉集合は可算コンパクトである.

列型空間

Def.(点列閉集合)
位相空間  X の部分集合  A が点列閉集合であるとは,次の条件が成り立つことである:
 X の点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} が,任意の  n \in \mathbb{N} に対し  x_n \in A を満たし,かつ  x \in X に収束するならば,  x \in A である


任意の閉集合は点列閉集合である.逆は必ずしも成り立たない.

e.g. (点列閉集合だが閉集合でない例)
最小の非可算順序数を  \omega_1 と書く. X = \omega_1 + 1 に順序位相を入れて位相空間と考える. A = \omega_1 \subset X閉集合でないが点列閉集合であることを示す.( \omega_1 は極限順序数であるから)  \{\omega_1\}は開集合でない.則ち  A閉集合でない. A が点列閉集合であることを示すには, X のある点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} \forall n \in \mathbb{N} \ x_n \in A を満たしつつ  \omega_1 に収束すると仮定して矛盾を導けばよい.各  x_n は高々可算な順序数である. \bigcup_{n \in \mathbb{N}} x_n = \alpha とおくと,任意の  n \in \mathbb{N} に対して  x_n \leq \alpha であり,さらに  \alpha \lt \omega_1 である. (\alpha, \omega_1] は  \omega_1 の開近傍であるが  x_n を一つも含まないので矛盾.

Def.(列型空間)
位相空間  X が列型空間であるとは, X の点列閉集合全体と閉集合全体が一致することである.


列型空間の例は次の命題で与えられる.

Prop. 1
第一可算空間は列型空間である.

(証明)  X を第一可算空間とし, A X の点列閉集合とする. A閉集合であることを示せばよい. x \in \overline{A} を任意にとる. X は第一可算空間であるから, x の基本近傍系  (N_n)_{n \in \mathbb{N}} が取れる.必要なら  N_n \cap_{i = 1} ^ n N_i に取り換えることにより, (N_n) n に関し単調減少であるとしてよい.各  n に対し, N_n \cap A \neq \varnothing であるから, x_n \in N_n \cap A をとることができる.点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} x に収束するから,  A が点列閉集合であることより, x \in A が得られる. x の任意性より, \overline{A} \subset A であるから, A閉集合である. \Box

e.g. (列型空間であるが第一可算空間でない例)
 X = \mathbb{R} \bigsqcup \{ \infty \} に次のように位相を入れる. O \subset X が開集合であるとは, O^c が有限集合であるかまたは  O \subset \mathbb{R} であることとする.これは確かに  X の位相を定める.
 X は第一可算空間でない.実際, \infty の可算な基本近傍系  (N_n)_{n \in \mathbb{N}} が存在したと仮定する.任意の  n に対し  (N_n)^c \subset \mathbb{R} は有限集合であるから, \cup_{n \in \mathbb{N}} (N_n)^c \subset \mathbb{R}可算集合である.従って,ある  x \in \mathbb{R} が存在して,任意の  n に対し  x \in N_n となる. X \backslash x \infty の近傍であるが,どの  n に対しても  N_n \not \subset X \backslash x となるから矛盾.
 X は列型空間である.実際,ある  A \subset X が存在して, A は点列閉集合だが閉集合でないと仮定する. A閉集合でないから, A \subset \mathbb{R} かつ  A は無限集合である.よって, A の点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} であって, i \neq j ならば  x_i \neq x_j となるものが取れる. (x_n) X の点列と見ると, (x_n) \infty に収束する.これは  A が点列閉集合であることに矛盾する.

次が目標としていた主張である.

Prop. 2
列型かつ可算コンパクトな空間は点列コンパクトである.

(証明)  X を列型かつ可算コンパクトな空間とする. X が点列コンパクトでないと仮定して矛盾を導く. X のある点列  (x_n)_{n \in \mathbb{N}} が存在して, (x_n) は収束部分列を持たない. A = \cup_{i \in \mathbb{N}} \overline{\{x_n\}} と定義する. A が点列閉集合であることを示す. X の点列  (y_m)_{m \in \mathbb{N}} が任意の  m に対し  y_m \in A を満たしつつ  y \in X に収束するとする.任意の  n に対し  \{m \in \mathbb{N} \mid y_m \in \overline{\{x_n \}}\} が有限集合であると仮定する.このとき, (y_n) の部分列  (y_{n_k})_{k \in \mathbb{N}} が存在して,各  k に対して  y_{n_k} \in \overline{\{x_{n_k}\}} となる. (y_{n_k}) y に収束するから, y の任意の近傍  N に対し,ある  K が存在して,任意の  k \geq K に対し  y_{n_k} \in N となる. y_{n_k} \in \overline{\{x_{n_k}\}} であったから, \{x_{n_k}\} \cap N \neq \varnothing 則ち  x_{n_k} \in N となる.ゆえに, (x_{n_k}) y に収束するが,これは  (x_n) が収束部分列を持たないことに矛盾する.よって,ある  n が存在して, \{m \in \mathbb{N} \mid y_m \in \overline{\{x_n \}}\} が無限集合となる.ここから  y \in \overline{\{x_n\}} \subset A が従い, A が点列閉集合であることが示された. X は列型空間だから  A \subset X閉集合であり, X は可算コンパクトだから  A は可算コンパクトである.よって,点列  (x_n) の集積点  x \in A が存在する. x \in \overline{\{x/n\}} なる  n は有限個しかない (そうでないと仮定すると  (x_n) x に収束する部分列を持つことになり矛盾する) から,ある  k が存在して, n \geq k ならば  x \not \in \overline{\{x_n\}} となる. A' = \cup_{n \geq k} \overline{\{x_n\}} \subset X A \subset X と同様の理由により閉集合になるが, (x_n)_{n \geq k} の集積点  x を含まないから矛盾.ゆえに  X は点列コンパクトである. \Box

 

参考文献

Steen, L. A., & Seebach, J. A. Counterexamples in Topology, 2nd ed. Springer-Verlag. doi:1007/978-1-4612-6290-9.
Kremsater, T. P. Sequential space methods. University of British Columbia. doi:10.14288/1.0080490.
https://topology.jdabbs.com (2020/12/24 閲覧)